公開日: 2025-10-01
永久成長率とは、企業が将来にわたってどの程度のペースで成長し続けるかを仮定した数値です。特にDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法で企業価値を算出する際に欠かせない要素として扱われます。
投資家やアナリストが注目するのは、この数値のわずかな違いが企業の評価額に大きく影響するためです。永久成長率を正しく理解することは、投資判断や企業価値評価の精度を高める上で非常に重要となります。
永久成長率とは
永久成長率とは、企業が長期的に将来にわたって成長し続けると仮定した際の成長率を指します。現実の企業が「永久に」成長することは不可能ですが、理論的に企業価値を算定する際には、ある時点以降のキャッシュフローが一定の割合で永続的に増えていくと仮定して計算します。
この概念は、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法の中で特に重要な役割を持っています。DCF法では、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計することで企業価値を求めますが、現実的に将来の全期間を予測することはできません。そこで、ある一定の予測期間(通常5〜10年程度)の後は「永久成長率」で伸びると想定し、その後の価値を「終価(Terminal Value)」としてまとめて算出するのです。
このため、永久成長率は「終価永続成長率(Terminal Growth Rate)」とも呼ばれます。わずかな設定の違いでも企業の評価額に大きな差が出るため、投資分析において極めてセンシティブな指標として扱われます。
永久成長率の計算と使い方
1.DCFモデルの基本式
永久成長率とは、DCF(Discounted Cash Flow)モデルの「ゴードン成長モデル(Gordon Growth Model)」で用いられる重要な要素です。基本式は以下の通りです。
企業価値=FCFN+1/ WACC−g
ここで、
FCFn+1 :予測最終年度の翌年のフリーキャッシュフロー
WACC:加重平均資本コスト(割引率)
g:永久成長率
この式により、将来のキャッシュフローが永遠に一定の割合で成長すると仮定して企業価値を算出します。
2.フリーキャッシュフローと割引率との関係
フリーキャッシュフロー(FCF)が将来的に安定して成長することを前提とし、その成長率を「永久成長率」として組み込みます。割引率であるWACCは、投資家が要求するリターンを示しており、これと永久成長率の差が企業価値算定に大きな影響を与えます。
特に、
gが大きい → 企業価値は大幅に上昇
gが小さい → 企業価値は控えめに算出
という特徴があります。ただし、割引率より大きな永久成長率を設定すると、理論的に企業価値が無限大となり、不合理な結果になるため注意が必要です。
3.数字を使った簡単な計算例
例えば、ある企業のフリーキャッシュフロー(FCF)が 100 億円で、WACC が 8%、永久成長率が2%と仮定すると、企業価値は次のように算出されます。
企業価値=100(1+0.02)/0.08-0.02=102/0.06=1.700億円
このように、わずか数%の成長率の違いでも企業価値は大きく変わるため、適切な数値設定が極めて重要です。
永久成長率の決め方
1.インフレ率+実質GDP成長率を基準とする
永久成長率は、あくまで「長期的に企業が持続できる現実的な成長率」を反映する必要があります。一般的に、国全体の経済成長の水準を超えることは難しいため、
インフレ率(物価上昇分)
実質GDP成長率(経済の実力成長分)
を合計した数値を目安とするのが一般的です。例えば、インフレ率が2%、GDP成長率が1%なら、永久成長率は3%程度 が妥当と考えられます。
2.国や市場による違い
先進国企業
経済成長が安定しているため、永久成長率は2〜3%程度 に設定されることが多いです。アメリカ、欧州、日本などはこの範囲に収まるケースが一般的です。
新興国企業
経済全体がまだ拡大基調にあるため、永久成長率はやや高めに設定されます。ただし、リスクが大きいため、WACCも高くなるのが通常です。例えば、インドや東南アジアでは 4〜5%程度 とされることがあります。
3.業界特性との比較
永久成長率を決める際には、マクロ経済だけでなく 業界の成長見通し も考慮する必要があります。
成熟産業(電力・通信・小売など):経済全体と同等か、やや低め(1〜2%)
成長産業(IT・再生可能エネルギーなど):経済成長率よりやや高め(3〜4%)
資源や景気敏感産業:景気循環の影響を強く受けるため、長期平均で2〜3%程度
4.長期的な持続可能性を重視
企業個別の競争優位性や収益構造も加味する必要があります。短期的には高成長が見込めても、永遠にその成長率を維持するのは現実的ではありません。そのため、多くのアナリストは、最終的には「長期のマクロ経済水準」に収束すると考えて数値を決めています。
つまり、永久成長率を決める際には、
インフレ+GDP成長率を基準にする
国や市場の成熟度を考慮する
業界の平均成長率と比較する
企業の競争力や持続性を確認する
というステップを踏むことが重要です。
投資における意味
1.企業価値算定の最終ステージに大きな影響を与える
DCF法による企業価値評価では、予測可能な数年間のキャッシュフローを計算した後、それ以降を「永久成長率」を用いてまとめて算出します。この「終価(Terminal Value)」は、企業価値全体の 50〜70%以上 を占めることも多く、永久成長率が投資判断に与える影響は極めて大きいといえます。
2.わずかな設定値の違いで評価額が大きく変動する
永久成長率は一見すると小さな数字(1〜5%程度)ですが、その変化が評価額に与える影響は非常に大きいです。
例えば、永久成長率を 2%から3% に変更しただけで、企業価値が 数十%単位 で変わるケースもあります。
このため、アナリストや投資家は永久成長率を設定する際、保守的かつ合理的に見積もる必要があります。
3.将来予測の不確実性をどう扱うかが投資判断のポイント
永久成長率は理論上「永遠の成長」を仮定するため、現実的には不確実性が非常に高い指標です。
あまりに高く設定すると、楽観的すぎる評価となり投資リスクが増大します。
逆に低く設定しすぎると、過小評価につながり、投資機会を逃す可能性があります。
そのため、投資家は単一のシナリオに依存するのではなく、
ベースケース(標準的な永久成長率)
強気ケース(やや高めに設定)
弱気ケース(やや低めに設定)
といった複数のシナリオを用いて分析し、リスクとリターンを比較検討することが推奨されます。
永久成長率は「DCF法における企業価値のカギ」ともいえる存在であり、投資判断においては数値そのものよりも、その設定の根拠と不確実性の扱い方が重要になります。
注意点とリスク
1.楽観的に設定しすぎるリスク
永久成長率を高めに設定すると、将来のキャッシュフローが大きく見積もられ、企業価値が過大評価される危険性があります。特にDCF法では終価の比重が非常に大きいため、わずか1%の上振れでも評価額が数十%変動することがあります。過度に楽観的なシナリオは、投資判断の誤りにつながる可能性が高いです。
2.マイナス成長率のケース
永久成長率は必ずしもプラスである必要はありません。例えば、
衰退産業(印刷、固定電話、化石燃料関連など)
技術革新によって代替されるビジネスモデル
などでは、長期的にキャッシュフローが縮小すると見込まれるため、マイナスの成長率を設定するケースもあります。この場合、企業価値はより低めに算出されますが、現実的なシナリオとして重要です。
3.金利やインフレ率の変動による影響
永久成長率はWACC(加重平均資本コスト) と密接に関連しています。
金利上昇局面では、割引率が高まる一方でインフレ期待も上昇し、永久成長率をどう設定するかが難しくなります。
インフレ低下や景気停滞の場面では、永久成長率を引き下げる必要が出てきます。
永久成長率は「経済の長期平均水準」を反映するため、マクロ環境の変化を無視して固定的に設定すると、企業価値評価が実態から乖離するリスクがあります。
4.業界特性との乖離
市場全体の成長率を基準にするのは基本ですが、特定の業界が衰退または急成長している場合、それを無視して一律に数値を設定すると誤解を招きます。例えば、再生可能エネルギーのように成長が期待される業界で過度に低い永久成長率を設定すると、過小評価につながる可能性があります。
要するに、永久成長率を設定する際には「過大評価リスク」「衰退産業のマイナス成長」「金利・インフレなどマクロ環境の変動」「業界特性」といった複数の要素を慎重に考慮する必要があります。
結論
永久成長率とは、企業が将来にわたって成長し続けると仮定する数値であり、DCF法による企業価値算定に欠かせない要素です。わずかな設定の違いが評価額を大きく左右するため、投資家は経済成長率や業界特性を参考に、現実的な水準を慎重に選ぶ必要があります。さらに、ベース・強気・弱気といった複数のシナリオを比較し、リスクとリターンのバランスを検証することが、正確で信頼性の高い投資判断につながります。
免責事項: この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。