サンクコストを識別し、回避する方法を解説

多くの人は子供の頃から、どんな時でも諦めないと教えられてきました。これらの考え方は、困難や課題に直面した時に、忍耐強く、断固とした姿勢を保つための励みとなります。しかし、盲目的な粘り強さは、特に間違った方向への悪影響につながる可能性があります。経済学には「サンクコスト(埋没費用)」と呼ばれる理論があり、これは粘り強く取り組むべきかどうかを判断する上で重要な議論です。それでは、サンクコストを特定し、回避する方法を見ていきましょう。

サンクコストとは何か

「サンクコスト(Sunk Cost)」とは、すでに支出され、将来にわたって回収不可能な費用や投資を指します。これは過去の意思決定に基づいて費やされた時間・お金・労力などであり、今後どのような選択をしても取り戻すことはできません。

例えば、レストランで料理を注文し、一口食べて「口に合わない」と感じたとします。しかし、すでにお金を払ったからという理由や、食べ物を無駄にしたくないという気持ちから、無理に食べ続けることがあります。その結果、満足できなかったり、健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。

また、ある株を購入した後に価格が下落したとします。本来なら損失を最小限に抑えるために売却するのが適切な判断ですが、多くの投資家は「株価が回復するはず」「損を認めたくない」という思いから売却せずに持ち続けてしまいます。その結果、さらに損失が拡大する可能性があります。

企業が新製品やプロジェクトの開発に多額の資金や時間を投じた場合も同様です。進行中に市場の需要が小さい、あるいは製品に欠陥があると判明したとしても、企業は「ここまでやったのだから」と開発を続けようとすることがあります。しかし、それはさらに損失を拡大させるリスクがあります。

日常生活でも、詐欺師が被害者の「すでに費やしたお金や時間(サンクコスト)」を利用して、さらなる投資や支払いを促す手口があります。被害者は過去の損失を認めたくない気持ちから、さらにリソースを投入してしまい、より深刻な被害を受けることになります。

このような状況に対して、人は2つの心理的傾向に直面します。「すぐにやめるのが賢明」「続けるのは愚かだ」というものです。なぜなら、サンクコストはすでに発生し、取り戻せないため、将来の意思決定に影響を与えるべきではないからです。合理的な意思決定者は、過去ではなく将来の利益とコストを基に判断すべきです。

例えば、ある投資に資金を投入したものの、期待した効果が得られなかった場合、今後の見込みに基づいて継続するか否かを判断すべきであり、過去にかけた金額を理由に続けるべきではありません。こうした考え方は「サンクコストの呪縛(じゅばく)」を避けるうえで有効です。

ただし、現実には「まずい料理を我慢して食べるのは、午後の仕事中に空腹になるのを避けるため」というように、単なる費用回収ではない合理的な理由がある場合もあります。このような場合は、他の食べ物を準備するなど、代替手段も検討する必要があります。

金融市場では、損失を認めたくない心理から損切りできない投資家も多いですが、その結果さらに価格が下落し、損失が膨らむことがあります。適切なタイミングでの対応が、より良い投資機会を逃さないためにも重要です。

もちろん、状況によっては異なります。もし購入したのが高値で割高な銘柄だったり、質の低い企業であれば、それを保有し続けることはサンクコストの罠であり、損失は拡大します。しかし、優良企業の株を割安で購入している場合には、忍耐強く保有を続けることで、やがて価格が回復し、大きなリターンを得られることもあります。

重要なのは、サンクコストと今後の投資を正しく区別し、すでに取り戻せないコストに左右されずに、将来の利益と損失に基づいて意思決定することです。感情に流されず、代替案の検討や機会費用の評価、必要に応じた損切りなどを通じて、より合理的で賢明な判断を下すことが求められます。

サンクコストの呪縛

サンクコストの呪縛とは、意思決定をする際に、すでに発生して回収できない費用や投資に影響され、不合理な選択や行動を続けてしまう現象を指します。本来、これらの費用は過去にすでに失われたものであり、将来の意思決定に影響を与えるべきではありませんが、多くの人は無視できずに判断を誤ってしまいます。

日常生活では、すでにある程度のコストを支払ってしまったために、それを無駄にしたくないという気持ちから、明らかに損失が拡大すると分かっていても行動をやめられないことがあります。このようなバイアスは生活や仕事のあらゆる場面に現れ、意思決定の質に悪影響を及ぼします。

代表的な例としては、以下のような行動が挙げられます：

• 面白くない映画をチケットを買ったからという理由で最後まで観る

• 明らかに失敗しているプロジェクトを続ける

• 不健康な恋を断ち切れない

• 損失が出ている株を売却せずに持ち続ける

これらはすべて、すでに費やした費用に引きずられて現在と将来の利益と損失を見誤る「サンクコストの呪縛」にあたります。

たとえば、つまらないと感じる映画でも、すでにチケット代を払っているからという理由で席を立たずに観続けることがあります。しかしチケット代はすでに回収できないサンクコストであり、今後の時間の使い方に影響を与えるべきではありません。

また、不適切な人間関係においても、すでに多くの時間や感情を注いできたからという理由で関係を続けてしまうことがあります。これは、現在や将来の幸福よりも、過去の投資に引きずられてしまう典型です。

大学で選んだ専攻が自分に合わないと気づいたのに、すでに学習した時間を理由に転学や専攻変更をためらうのも同様です。そのままでは、長期的な不満や後悔につながる可能性があります。

ビジネスの現場でも、この呪縛は重大な影響をもたらします。たとえば、企業がある開発プロジェクトに多額の資金を投じたあと、成功の見込みが乏しいことが判明しても、「ここまでやったから」とプロジェクトを継続し、さらなる損失を招いてしまうことがあります。

投資においても、損失が出ている資産を売却できずに持ち続けることで、損失を拡大させてしまう場合があります。これは、損失を認めたくない気持ちや、いつか回復するという期待から来ています。

この呪縛には、「損失を回避したい」という心理、すなわち「損失回避」の傾向が強く関係しています。人は一般的に利益を得る喜びよりも、損失を被る苦しみの方を強く感じるため、損失を認めることを避けようとするのです。

自分の選択が間違っていたと認めることは、恥ずかしさや不快感を伴うことがあり、自尊心を守るために誤った選択を続けてしまうこともあります。

また、人は失敗を外部要因のせいにして、自分の意思決定に問題があったとは考えたがらない傾向もあります。その結果、間違った判断を繰り返し、時間やお金、労力といった貴重なリソースを無駄にしてしまいます。

さらに、すでに行った決定が正しかったと思い込みたいがために、自分の意見に都合のよい情報だけを集め、都合の悪い情報を無視してしまう「確証バイアス」に陥ることもあります。

人は自分が費やした時間やお金、労力に執着する傾向があります。この執着心が、たとえ続ける合理的理由がなくても、それを手放すことを難しくさせます。加えて、他人の目や社会的な圧力によって、「失敗を認めたくない」「面子を保ちたい」と感じてしまうこともあります。

このようなサンクコストの呪縛を避けるためには、まず自分の中にこうした心理的バイアスがあることを自覚することが大切です。そして、過去の投資ではなく、将来の利益と損失を基準にして意思決定を行うことが重要です。冷静で理性的な判断を保つことで、より良い選択をすることができます。

投資においてサンクコストの呪縛を避ける方法

日常生活でこの呪縛に陥ったとしても、せいぜい映画を一本無駄にしたり、バスを長く待つ程度の損失で済みます。しかし、投資の世界でサンクコストに縛られ続けると、多くのストレスを抱えるだけでなく、投資判断を誤り、貴重なチャンスを逃すことにもつながります。

多くの投資家は、保有している株が損失を出していても売却しようとせず、ナンピン買いで平均取得単価を下げようとします。結果として損失が膨らみ、状況が悪化するケースが少なくありません。たとえば、すでに企業のファンダメンタルズが悪化しているにもかかわらず、単に「損をした状態だから」という理由で売らず、元の価格に戻るのを待とうとするのです。

その後、株価がさらに下落した場合も、「損失を確定したくない」「回復してから売りたい」と考えて、さらに買い増しを続けるという、典型的な投資判断の誤りに陥ります。これは、すでに投じた資金への執着、希望的観測、自分の判断を正当化しようとする心理、そして失敗を認めたくないという感情によって引き起こされます。

このような呪縛を避けるためには、まず意思決定の際に過去のサンクコストを判断材料にせず、将来のコストとリターンだけを基に判断することが大切です。過去の投資に縛られず、未来の価値と可能性に集中することが理性的な判断を導きます。

次に、すでに費やしたコストが回収不能であり、これ以上の投資がさらなる損失を招くと判断した場合には、迷わず手を引く勇気が必要です。冷静に現状と将来の見通しを分析し、新たなチャンスに目を向けることが求められます。

また、感情や心理的バイアスに流されることなく、未来の利益に集中して意思決定を行う姿勢も重要です。将来の収益性や機会を客観的に評価し、過去の投入資源に影響されないよう心掛けましょう。

投資判断を行う前には、利益目標と損切りラインを明確に設定しておくことが効果的です。これにより、損失が拡大する前に理性的に対応でき、サンクコストに振り回されるリスクを減らせます。あらかじめ決めた損切りラインに達したら、感情に流されずに機械的に売却することが肝心です。

判断の基準として、購入時の価格ではなく、現在の市場環境と将来の投資価値に注目すべきです。株価の動きは買値ではなく、企業の財務状況や市場トレンドなどのデータに基づいて評価するべきです。企業の業績悪化や競争力の低下といったファンダメンタルの変化に敏感に反応し、適時に再評価を行いましょう。

定期的にポートフォリオを見直すことも有効です。各投資案件の現状と将来性を客観的に確認し、必要に応じて戦略を見直すことで、リスク管理とリターンの最適化が図れます。

さらに、ポートフォリオの分散を徹底することで、単一銘柄に対する依存度を下げ、サンクコストへの執着も軽減されます。投資対象を分散することで、個々の銘柄に過度にこだわることなく、柔軟な判断が可能になります。

他人の意見に過度に流されず、自分の分析と判断に基づいて行動することも大切です。データと論理に基づいた独立した思考が、衝動的な判断ミスを避ける鍵となります。過去ではなく、将来の可能性とリスクを見据えて、より理性的な判断を行いましょう。

投資家には「損失を受け入れる」強いメンタル、いわば心理的な耐性も必要です。損を受け入れるのは苦しいものですが、それを乗り越えて冷静さと柔軟さを保つことが、サンクコストの罠から逃れるために欠かせません。優れた投資家は、自分のコストを記憶から切り離し、常に「未来の確実性と投資効率」のみを考えて行動します。

これらの方法を実践することで、投資家はサンクコストの呪縛を避け、より合理的で効果的な投資判断が可能になります。理屈では5分で理解できても、実践には5年、あるいはもっと長い時間がかかるかもしれません。しかし、こうしたバイアスから解放されることができれば、投資はより自由で柔軟なものになり、市場を自在に乗りこなせるようになるでしょう。

免責事項: この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。